製鉄の過程で発生する副産物を活用し、環境にやさしい高炉セメントを製造・販売している日鉄高炉セメント株式会社。社員の声を集めた「夢リスト」をトップが作成し、社屋建替えから報奨金制度まで、さまざまな改革を実現してきました。「全員参加でより良い価値の創造を！」を方針に、社員が幸せに働ける環境づくりを推進しています。

気兼ねない対話から生まれた夢リスト

　2015年に弊社の社長に就任する前は、親会社の日本製鉄に勤めていました。全然違う仕事をしていたので、まずは会社のことを知ろうと思い、皆さんと対話する機会をつくりました。職場での面談や日々のコミュニケーションのほかにも、週１回ほど５、６人の社員と一緒に食事会をしました。いわゆる飲みニケーションです（笑）。これを50回以上続け、全社員の話を聞きました。いろいろな意見をもらい、前向きな提案もたくさんあったので、忘れないよう、帰宅後にパソコンに記録していたんです。

　それを積み重ねていったら、50項目ほどのリストになりました。こうした要望に対して会社としてどうしていくか部門長と議論を重ねるうちに、夢が夢を呼んで膨らんでいき、現在は約140個のリスト（夢リスト）となっています。現在そのうち６割は実現し、４割は保留の状態です。リストに込められた社員の思いに応えていくのが、私のミッションだと思っています。

新社屋プロジェクトを実現

　夢リストの実現で一番大きかったのは、２年前に新設した本社事務所です。以前はかなり古い社屋だったので、多くの人が不便さや居心地の悪さを感じていました。弊社は100％子会社のため、建設には親会社の承認が必要です。お金もかかることですし、総務部のリーダーを中心に各部署のメンバー７人でプロジェクトチームをつくり、案を出し合って着実に形にしていきました。事務所づくりで大事にしたのは、一体感の醸成です。構内の協力会社を本社事務所に集約するとともに、社長室は社員と同じフロアでガラス張りにしました。広々とした会議室、きれいなシャワー室など社員の意見を反映し、みんなが喜べる成功事例になりました。

　また、福利厚生の一環として、2017年から健康に関する報奨金制度を導入しています。「禁煙をしたら報奨金を出してほしい」という声をきっかけに、喫煙の有無に絞るのではなく、全社員を対象にした仕組みを考えました。健康診断の結果、ランクが上がった人や、高いランクを維持した人に報奨金が出る制度にしたところ、社員の喫煙率やメタボ率が下がり、健康指標に改善が見られました。

　他にも、資格報奨金制度を設け、自己研鑚を支援しています。報奨金は、各資格の必要度と難易度を点数化し、掛け算で算出しています。

意識と行動を変える仕組みづくり

　働きやすい環境づくりとして、年休取得の推進や、勤務時間の管理を進めてきました。現在の年休取得率は７～８割で、以前より1割以上増えています。超過勤務については、上司の指示があった場合だけ許可するようにしたら、かなり減りましたね。ルール化したことで意識と行動が変わりました。コロナ禍の前から導入していた在宅勤務制度も、この３年で実用化が進みました。

　育児休業は、女性が一人、取得したことによって基盤ができました。弊社は子育て世代の女性が少なかったのですが、今後は増えていくので積極的に活用してほしいと思っています。

　こうした仕組みづくりと同時に、人を採用して余力を生むことも重要です。いっぺんにはできませんが、徐々に環境を整備しているところです。人材育成にも力を入れており、入社１年目から３年目を対象にした「高炉塾」を開催しています。私が塾長となって、プレゼンテーションやディベートを中心とした研修を行い、切磋琢磨しながら社会人としての対応力を養っています。

社員が幸せになる会社でありたい

　トップのビジョンを示して共有することが大事だと考え、年４回、社長講演をオンラインで配信しています。会社の状況や目標、自分の考えを全社員に伝え、アンケートでフィードバックをもらい、意見は夢リストに追加して常にアップデートしています。

　弊社にはセメント、建材、石灰という３つの事業があります。それぞれ立ち位置は違っても、180人の社員が共通の課題認識を持ち、一つのミッションに向かって取り組んでいくことが私の理想です。日本唯一の高炉セメント専業メーカーとして、カーボンニュートラルを実現できる商材を普及させ、世の中に貢献していきたい。講演の最後にはいつも「全員参加でより良い価値の創造を！」と言って締めています。

ビジョンの実現も、夢リストも、さまざまな制度も、私はすべて手段だと思っています。「社員が幸せになる」という目的に向かって、みんなで課題を乗り越え、成功体験を積みながら進んでいきたいです。