北九州イクボス同盟

今こそイクボス

What's イクボス?

イクボスとは?

イクボスとは、部下や社会、そして組織を育(イク)てる上司(ボス)のことです。
イクボスは、職場でともに働く部下やスタッフの
“仕事と生活の両立(ワーク・ライフ・バランス)”を考え、
その人のキャリアと人生を応援しながら組織の結果も出しつつ、
自らも仕事と私生活を楽しむことができる上司(経営者・管理職)のことです。

なぜいまイクボスなのか?

なぜ今、イクボスが求められているのか。それは日本が直面する社会的背景にあります。
人口減少や高齢化のなか、働き手が減少する一方、共働き世帯や介護に従事する社員が増加しています。
今後、企業が優秀な人材を確保し、社員が働き続けるためには、仕事と私生活が両立できる職場、
そしてそんな職場を作る経営者や上司がいる企業が注目されています。

共働き世帯や介護を担う社員が増えている。

以前は、圧倒的多数だった専業主婦世帯も、1990年代に入ると、共働き世帯と逆転し、その差は広がりつつあります。また、要介護者数も増加傾向にあり、まもなく、団塊の世代が後期高齢者となり、"大介護時代" に突入。今後は、育児と介護の両方を同時期に担うダブル制約社員が増えることも考えられます。

これからの人材は、「働きやすい企業」を選ぶ。

上司が変われば、職場も変わる。
組織・人材・社会を育てる「イクボス」のススメ

新しい時代の理想の上司、「イクボス」とは

 「イクボス」とは、育児をするボスではありません。部下のワーク・ライフ・バランス(仕事と家庭の両立)を考慮したキャリア形成を支援しつつ、男女とも働きやすい環境づくりとチーム・マネジメントによって、組織の業績もしっかりあげる上司のことです。

 これまで日本は男性労働者と専業主婦という家庭がほとんどで、女性が家で育児を担当し、男性が外で長時間働きながら成長してきました。しかし今は産業構造が激変し、働けば物が売れる時代ではありません。品質優位性も既に海外に追いつかれ、新しい目線でより付加価値の高い商品を作る力が必要になっています。

 例えばノンアルコールビールの「キリンフリー」は爆発的なブームになりましたが、この商品を開発したのは授乳中のママ社員。育児をしながら家庭を守って仕事もする、そんな女性達がヒット商品を生み出しているのです。これは男女の能力差ではありません。男性も育児に参画して家庭回帰する環境が整えば、新たな視点を得て仕事にも活かせるはずです。

 また女性の大学進学率も伸び、出産育児を経て両立しながら働きたい女性は多い。今後はそういった人材も活用、育成できる「イクボス」の存在がますます重要になるでしょう。現実は育児だけでなく、介護、キャリアアップの勉強など、それぞれの事情を抱えて、働く時間に制約のある社員も多いのです。そのようなダイバーシティ(多様性)を理解し、誰もが生活と仕事をうまく両立させながら能力を発揮して、会社や組織をサスティナブルに成長させていく、そういった職場を作ることがまさに上司の仕事だと思います。

「イクボス」の采配が、無駄を省いて成果をあげる

 日本は他の先進国と比較して、ホワイトカラーの生産性が著しく低いそうです。海外勤務経験者は「海外では会議に責任者一人が出てくるが、日本は何人もきて結局誰も決められず、また持ち帰る。時間の無駄に加え、決定も遅い」と指摘しています。このタイム・マネジメント力の欠如は、長らく続いてきた長時間労働という現象にも表れています。若い頃はそれで鍛えられる面もあるのでしょうが、今は共働きが増えたり少子高齢化が進んだりと環境が劇的に変化しています。そして、能力が高い優秀な社員ほどより働きやすく、高く評価してくれる場所を求め辞めていきます。こういった組織は結局、ダメになっていくのです。

 一方、「イクボス」がいる組織では離職者が減り、社員の事情に合わせた働き方によって生産性が上がります。ワーキングマザーはみんなやっていることですが、時間制約があるなか、どうにか工夫して、効率よく働くのです。そこをうまくマネジメントして「チーム力」を高めるのが「イクボス」です。長時間働かなければ成果が上がらない、という思い込みは止めましょう。メーカーと商社では働き方も課題も違うでしょうが、部下や自社の状況をよく見て、本当の課題は何なのかを自分の頭で考えることが大切です。うまくいかない理由は必ずあり、それは決して克服できない問題ではありません。単に「社員のやる気がない」と決めつけるのではなく、何がやる気をなくしているのかなどそのメカニズムを自分で考え、対処するのが「イクボス」です。

 「イクボス」を増やせば、業務の効率化のみならず社員の心身面の健康や家族の安定による勤労意欲の改善、過労やメンタルに対するリスクヘッジ、震災時のBCP対策などその効果は多岐にわたり、実際に成果を上げて実証している企業も数多くあります。

「イクボス」たるものの心構え

 僕が「イクボス」を勧める理由はいくつかありますが、一つは理想のロールモデルが見つからないため、管理職になりたがらない若手が増えていることです。ワーキングマザーが必死で家庭と仕事を両立している姿を見て、「私には無理」と結婚・出産で退職する姿と同じです。これは個々人の能力の問題ではなく、働き方・職場環境の問題で、ここをしっかりアセスメントし、誰もが無理なく能力を発揮できる環境作りができれば解決します。そしてそれこそがボスの仕事です。そのためにはまず自らが、ワーク・ライフ・バランスを体験して欲しい。仕事のつき合いだけでなく、家のこと、学校行事、地域の集まりなどに時間を割き、休暇をとってリフレッシュすれば、仕事にも集中できて結果も出る。自分で実感すれば、必ずいいマネジメントができるようになります。

 日本はトップダウン社会ですからプロジェクト進行も人事査定も上司次第、権限を持つ人がその権力を正しく使わないと道を誤ります。「虐待」を英語でアビューズ(abuse)といいますが、これは身体的暴力ではなく、権力の乱用を意味します。つまり親としての権力を乱用するのが児童虐待で、上司としての権力乱用がパワハラやセクハラです。ですから権限を持つ人は、心してダイバーシティを理解しなければなりません。「仕事が趣味」という人もいるでしょうが、部下には部下一人一人の人生があります。悪気はなくても、無意識に自らの価値観を押しつけるのは躾と称して虐待する親と同じです。

「コミュニケーション」から生まれる絆

 「イクボス」へのファーストステップは、コミュニケーションです。職場では約7割の人が何らかの問題を抱えていると言われますが、「この人に言っても無理だな」と思えば部下は何も話しません。まずは日頃から自らのプライベートや失敗談も話しながら、部下との信頼関係を築いてください。家族や趣味などの話をするうちに、部下が大切にしているライフの本質が見えてきます。子どもが保育園に通っているなら「この時期は風邪が流行るから、急な休みの可能性がある、チームマイナス1でやらなきゃ」といったマネジメントができるわけです。みんなが常に健康でフルタイムで働けるわけではなく、あなたもたまたま今は問題がないだけで、明日病気になるかもしれないし、老親が倒れるかもしれません。「イクボス」は育児する人の福利厚生ではなく、みんなで共に支え合い、成長するためのフェアなマネジメント・スキルなのです。

 もちろん誰もが急に「イクボス」になれるのではなく、やってみて納得し、「こっちの方がいいね」と腑に落ちるまでにはやはり時間がかかります。導入時は反発や混乱があるかもしれませんが、80年代にも「週休2日になったら会社が潰れる」と騒ぐ経営者がたくさんいました。しかしそれが理由で潰れた会社など、僕は見たことがありません。

 目先の利益や数字だけで単純に判断せず、今「イクボス」を進めれば、この会社はずっと残って成長していく。それが社員のため、組織のため、ひいては社会のためだ、という信念を持って欲しい。そして、自分自身が人生を謳歌し、部下から尊敬されるような人間的魅力に溢れる「イクボス」になっていただきたいと願っています。

イクボスプレス(北九州市総務局発行)より抜粋
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