イクボスとは、部下や社会、そして組織を育(イク)てる上司(ボス)のことです。
イクボスは、職場でともに働く部下やスタッフの
“仕事と生活の両立(ワーク・ライフ・バランス)”を考え、
その人のキャリアと人生を応援しながら組織の結果も出しつつ、
自らも仕事と私生活を楽しむことができる上司(経営者・管理職)のことです。
なぜ今、イクボスが求められているのか。それは日本が直面する社会的背景にあります。
人口減少や高齢化のなか、働き手が減少する一方、共働き世帯や介護に従事する社員が増加しています。
今後、企業が優秀な人材を確保し、社員が働き続けるためには、仕事と私生活が両立できる職場、
そしてそんな職場を作る経営者や上司がいる企業が注目されています。
北九州市の人口減少率は政令指定都市の中でも最も高く、生産年齢人口(15歳~64歳)比率も将来的に最下位になる恐れもあります。そのため、人材の確保は企業の生命線となります。「働き方」を見直すことで、有能な人材が集まり、定着していきます。
出所:令和2年は総務省「国勢調査(10月1日現在、年齢不詳者は年齢区分別人口に含まない)」、令和17年は国立社会保障・人口問題研究所「日本の地域別将来推計人口(平成30年3月推計)」より北九州市の高齢化率は政令指定都市の中で最も高く、高齢化に伴い、介護が必要な高齢者の介護者も増加します。経験豊富な社員が介護離職をしなくても済むように、働き方を変えましょう。
出所:総務省「住民基本台帳に基づく人口、人口動態及び世帯数(令和4年1月1日現在)」のうち【総計】市区町村別年齢階級別人口より育休が取れるかなど働きやすさを求める一方、働きがいや仕事での成長も同時に求める若者が増えています。優秀な人材の確保・定着に向けて、社員のワークもライフも充実できる働き方へ進化させましょう。
出所:※1はパーソルキャリア株式会社2021年「男性育休に関する意識調査」、※2は株式会社ラーニングエージェンシー2022年「新入社員意識調査」より少子高齢化で働き手が減り、共働き世帯や介護離職者が増加しつつある昨今。適材適所の人材マネジメントが、企業成長のカギとなっている。しかし、女性活躍推進や男性の育児参画に対する理解不足から、未だに貴重な人材を戦力外とみなしてしまいがちな経営者や管理職も多い。
そこで「イクボス」の提唱者であり、イクボス式経営で企業の利益8割増、株価2倍に向上させた実績をもつ川島高之氏に、これからの経営者や管理職のあり方について伺った。
川島 高之
「イクボス」とは、①部下の私生活と仕事の両方を応援し、②自らワーク・ライフ・ソーシャルを満喫し、③組織の目標(利益等)達成に強い責任感を持つ、という3つの定義を満たしている管理職や経営者のことを指します。「イクボス」という概念は2014年に私が定義したものですが、当時は言葉として存在していなかった「イクボス」が今や日本中に広がり、イクボス同盟も大企業から中小企業、地方企業、自治体にまで拡大しています。特に北九州市は、地方都市の中でも先進的にイクボス活動の取組みを進め、2017年に官民連携で北九州イクボス同盟を設立して以来、市内の加盟企業は300社を超えるまでになっています。
なぜ、「イクボス」がこれほどまでに求められるようになったのか、その背景には、急速な時代変化があります。日本の社会構造をみると共働き世帯が大半を占め、女性の社会進出とともに、育休を取得したいと家庭参画に積極的な男性も増加しています。また、若手世代の多くが、仕事と私生活の両立を当たり前にとらえる意識が強く、世代間ギャップが拡大しています。企業が慣習的に続けてきた「昭和型」の価値観から抜け出すことができなければ、若手世代や部下達から見放され、優秀な人材確保や人材定着が難しくなるリスクが非常に高まっています。
また、イクボス推進は、当事者である管理職層にとっても非常に有益です。ここ近年、働き方改革やワーク・ライフ・バランス重視により生じた負荷が管理職層に集中し、つぶれそうになっている方が大変増えています。管理職層自らが、これまでの働き方から脱却しなければなりません。また、管理職層世代には、今後、親の介護と仕事との両立リスクや、定年退職後に居場所も生きがいがなくなってしまう燃え尽きリスクなどの課題が待っており、仕事だけに偏った人生は、もはや持続可能ではないことが明らかです。
さらには、世代を問わず誰もが、人材としての旬を保ち、長く活躍するためには学びや社会活動の時間を捻出する必要がありますし、人生100年時代、心身の健康を保って持続可能に働き続けていくためにも、休息や睡眠、余暇の時間も十分に確保することが重要です。
こうした新時代の要請に応え、誰もが働きがいを感じながらも、私生活も大事にし、組織の成果もあげていく。それを実現するためのキーパーソンが「イクボス」であり、これからの時代を生き残っていくための必須要件なのです。
職場内はすでに多様化しています。属性や経験など多様なメンバーが活躍できる職場は、変化に強く、創造的で斬新な意見やアイデアが生まれ、イノベーションや構造改革が進みやすくなります。さらに職場を構成するメンバーの大半が「制約社員」となりました。過去には、24時間いつでも、全国どこでも働けるメンバーが組織の主力でしたが、今や、働く場所や時間に制約のあるメンバーをうまくマネジメントし、「チーム力」を高めて成果を出さなければなりません。
また、時代変化とともに、リーダーに求められる資質も大きく変化しています。昭和の頃のように先が読みやすく、大量に生産すれば大量に売れて、終身雇用・年功序列型で組織が成り立っていた時代には、上意下達型、いわゆる「俺についてこい」タイプが適任でした。一方、現在は不確実性が高まり、変化の激しい時代です。無駄を省いて生産性をあげる必要があり、人材も「資本」としてとらえるようになりました。このような時代に求められるのは、共感・承認型のリーダー。多様なメンバーに寄り添い伴走し、「一緒に考えよう」というスタンスで、メンバーの個性や違いを掛け合わせて、共に成果を出す必要があります。まさに「イクボス」の資質が求められる時代なのです。
イクボスを推進する組織の多くが、その効果を実感しています。特に以下の3つの効果がみられます。
まずは、部下と上司の「仕事能力」の向上です。私生活からのインプットにより、視野や人脈が広がり、発想力があがり、新しいアイデアや視点も生まれやすくなります。また、短い時間で賢く働く習慣が身につき、段取り力も高まるなど、仕事の成果に直結するスキルが磨かれていきます。
そうやって仕事能力の高いメンバーが増えることで、組織の「総合力」も高まります。コミュニケーションが活性化し、社内の雰囲気もよくなり、人材が定着しやすくなります。そのような働きやすい職場風土は、人材採用にももちろんプラスに働きますし、組織の知名度や評判にもつながるでしょう。
さらに組織の「リスク」も大きく軽減します。心身の不調を抱えるメンバーが減り、心理的安全性の高い組織になるため、自ずと、労災やハラスメントのリスクも低下します。そのような組織では当然、隠蔽や不正などの不祥事も生じにくくなり、健全性が高まります。
イクボス推進は、組織内の好循環を生み、組織の持続可能な成長につながります。組織の誰もが、自分らしい人生を謳歌しつつ、働き甲斐を感じながら成果達成にもコミットできる、そのような働き方を、ぜひイクボス推進により、実現していただきたいと願っています。