認知症の高齢者が2025年には約700万人になると想定されている現実に対して、認知症の人が尊厳を保持しつつ希望を持って暮らすことができるよう、認知症施策を総合的かつ計画的に推進するための、「共生社会の実現を推進するための認知症基本法」(以下「認知症基本法」という。)が先の国会で成立しました。現在、政府の「認知症と向き合う「幸齢社会」実現会議」において、認知症の本人及びその家族をはじめ、認知症に関わる様々な方々から幅広い意見を聴きながら、認知症基本法の施行に先立っての方針が取りまとめられています。
今こそ、認知症の人を含めた国民一人一人がその個性と能力を十分に発揮し、相互に人格と個性を尊重しつつ支え合いながら共生する活力ある社会(以下「共生社会」という。)の実現をという目的に向かって、認知症施策を国と地方が一体となって進めていくときです。
私たちが目指す共生社会とは、誰もが認知症になる可能性がある中で、生活上の困難が生じた場合でも、重症化を予防しつつ持てる力を生かしながら、周囲や地域の理解と協力の下、本人が希望を持って地域の中で尊厳が守られ、自分らしく暮らし続けることができる社会です。
よって、本市議会は、政府に対し、認知症との共生社会の実現に必要な予算措置も含め、行政の体制を一層強化させ、一刻も早い認知症との共生社会を、各地域で実現することを求め、次の措置を講じるよう強く要請します。
1 本年6月に成立した認知症基本法の施行に向け、立法の趣旨を踏まえ、円滑な施行に向け、施行後に設置する「認知症施策推進本部」をはじめとする準備に万全を期すこと。特に、認知症の本人が、自身が認知症であることを隠すことなく、朗らかに日常を続けられるように、認知症に対する偏見や差別を解消するため、古い常識の殻を破り、基本的人権に根ざした希望のある新しい認知症観の確立のために、省庁横断的かつ総合的な取組の推進に総力を挙げること。
2 地方自治体における都道府県認知症施策推進計画、市町村認知症施策推進計画の策定において、今までの延長ではなく、共生社会の実現に向けた統合的かつ連続的な計画の策定を可能にする専門人材の派遣など、適切な支援を行うこと。また、各地方自治体が主体的に実効性の高い施策を自在に展開するために、自由度の高い事業展開と予算措置の在り方を検討すること。
3 地域住民に対する認知症基本法の理念等の普及啓発、安心・安全な地域づくりの推進等、共生社会の実現を推進する取組を、部門間の縦割りをなくして総合的かつ継続的に推進すること。また、各地方自治体の施策を適切かつ的確に展開するために、認知症の本人が企画から評価まで参画できる体制の整備を検討すること。
4 認知症の人の働きたいというニーズをかなえる環境整備も重要であることを踏まえ、若年性認知症の人、その他の認知症の人々の就労や社会参画を支える体制整備を進めるとともに、働きたい認知症の人の相談体制を充実し、認知症と診断されても、本人の状態に応じて、社会の一員として安心して生活できる事業者も含めた社会環境を整備すること。
5 独居や高齢者のみ世帯が急増する中で、一つの事業所で相談から訪問介護、通所介護、ショートステイまで、一人一人の状態の変化に応じて継続的に対応できるオール・イン・ワンの介護保険サービスを24時間365日提供する小規模多機能型居宅介護サービス事業について、見守り体制の整備も含めて拡充すること。
6 身寄りのない方を含め、認知症になったとしても、その状態に応じて、安全に安心して生活ができる社会環境の構築に向け、一人一人の意思を最大限に尊重し総体的かつ柔軟に寄り添い支える、成年後見制度や身元保証等の在り方について現状の課題を整理し検討を進めること。また、住まいに課題を抱える方々に対する総合的な相談対応、一貫した支援を行う実施体制を整備すること。
7 全ての国民が正しく認知症に向き合う社会環境を整えるために、認知症発症予防から人生の最終段階まで、認知症の容態に応じ、相談先や、いつ、どこで、どのような医療・介護サービスや地域の支援を受けることができるのか(認知症ケアパス)、更に認知症の人を支える周囲の人における意思決定支援の基本的考え方や姿勢、方法、「驚かせない・急がせない・自尊心を傷つけない」の心得など配慮すべき事柄等(認知症の人の日常生活・社会生活における意思決定支援ガイドライン)を、繰り返し国民が学べる環境を整備すること。
以上、地方自治法第99条の規定に基づき意見書を提出します。