介護保険によるサービスを円滑に提供するため、3年ごとに介護保険事業計画や介護報酬の見直しが行われてきました。2000年4月にスタートした介護保険制度も来年4月から第4期目となります。現在、各地方自治体では介護保険事業計画の見直し作業が進められ、厚生労働省の社会保障審議会介護給付費分科会では介護報酬の改定に向けた本格的な議論も始まっています。
そうした中、現在、介護業界では収益の悪化や、低賃金による人材不足が深刻な問題となっています。特に、介護労働者の離職率は2割以上に上り、待遇の改善が強く求められています。そのために介護報酬の引上げが望まれていますが、介護報酬の引上げは介護労働者の待遇改善につながる一方、介護保険料の引上げとなって跳ね返ってくるだけに、慎重な議論が必要です。
よって、本市議会は、政府に対し、安心の介護保険制度として根幹を維持しつつ、介護サービスの拡充を図るため、次の措置を講じるよう強く要請します。
1 介護報酬の改定に当たっては、介護事業経営実態調査に基づき、地域における介護保険によるサービスが確実に実施できるよう、サービスごとの人の配置や処遇などに十分留意の上、適切な引上げを図ること。
2 介護報酬の引上げが、第1号被保険者の介護保険料の引上げにつながらないよう特段の措置を行うこと。また、介護保険料の設定については、所得比例方式への見直しや、市町村ごとに柔軟な決定ができるよう配慮すること。
3 必要な療養病床を確保するとともに、認知症対策を拡充することにより、地域ケアの体制の整備及び充実を図ること。
4 介護に従事する人材を確保し、その定着を図るため、介護労働者の処遇の改善や新たな人材を確保するための緊急支援事業を実施するとともに、雇用管理の改善に取り組むこと。
以上、地方自治法第99条の規定に基づき意見書を提出します。
意見書(第42~47号)
第42号・安心の介護サービスの確保を求める意見書
第43号・ウイルス肝炎に関する新たな総合対策の推進を求める意見書
肝炎ウイルスへの感染は、我が国最大の感染症であり、B型肝炎ウイルス及びC型肝炎ウイルスによる肝炎患者及び感染者の数は300万人を超えると推定されています。肝硬変及び肝がんの死亡者数は年間4万人を超え、その9割以上がB型肝炎及びC型肝炎に起因すると推定されています。
肝炎患者及び肝炎が肝がん等に進行した患者たちの多くは、長期の療養に苦しみ、経済的にも多くの困難に直面しています。また、ウイルス肝炎患者及び肝炎ウイルスによる感染者は、社会生活の多くの場面での偏見や差別に苦しんでいます。
よって、本市議会は、政府に対し、感染原因や感染の危険性が分かっていながら、放置し、まん延させた責任が国にあることにかんがみ、また、肝炎の患者団体を始め、多くの関係者や市民から、肝炎に対する治療に向けた取組等を期待する声が上げられたことを踏まえ、ウイルス肝炎被害等の対策の拡充を図るため、次の措置を講じるよう強く要請します。
1 ウイルス肝炎に対する新しい治療薬及び治療法の研究及び開発を促進し、早期に健康保険の適用とすること。
2 全国各地で肝炎の専門的治療が受けられるよう治療体制を早急に整備すること。
3 B型肝炎患者及びC型肝炎患者に対する医療費の支援制度を創設すること。
4 ウイルス肝炎患者及び肝炎ウイルスによる感染者のための相談及び支援の体制を早急に整備すること。
5 ウイルス肝炎患者及び肝炎ウイルスによる感染者に対する社会的偏見や差別をなくすため、正しい知識の普及に努めること。
以上、地方自治法第99条の規定に基づき意見書を提出します。
第44号・食の安全を確保するための取組の強化を求める意見書
近年、食品の品質表示に関する悪質な偽装や、有害物質の混入、事故米問題など食の安全を根底から揺るがす事件や事故が多発しています。
特に事故米問題では、農林水産大臣と農林水産事務次官が辞任する極めて異例の事態に発展しました。生命を軽視する業者の行為は厳しく処罰されるべきですが、それ以上に、国民の生命と生活を預かるはずの農林水産省が、その責任を果たさなかっただけでなく被害を拡大させた責任は重大です。国民の不信感や怒りは極めて大きなものです。
現在、農林水産省では「農林水産省改革チーム」を設置し、業務及び組織の見直しを行うための取組を進めているところですが、今後、同様の事態を二度と起こさないためにも、猛省と改革を強く促すものです。
また、食の安全に関する問題だけでなく、近年相次いでいる消費者問題はどれも深刻な様相を呈しています。政府の消費者行政推進会議の取りまとめ(平成20年6月13日)によれば、これまでの消費者関連の事件を検証した結果、やはり縦割り行政が大きな要因であることが明らかになっています。こうした縦割り行政の弊害をなくし、消費者が安心して消費生活を営むことができる社会を実現するため、内閣府の下に消費者庁を早期に創設し、消費者の利益の擁護等に関連する事務を一体的に行う消費者行政を推進するべきです。
よって、本市議会は、政府に対し、次の措置を講じるよう強く要請します。
1 偽装表示を一掃するため、JAS法を改正し、直罰規定を設けるなど罰則を強化する規定を設けること。
2 農作業の工程管理や農場から食卓に至る衛生管理の普及を促進することにより食品の安全性を高めるとともに、トレーサビリティシステム(流通経路情報把握システム)を確立することにより食品の流通経路を一層明確にすること。
3 輸入食品の安全に関する情報の提供を迅速かつ適切に行うとともに、監視及び検査の体制の強化並びに拡充を図ること。
4 政策全般にわたり消費者の観点から監視し、及び強力な権限を有する消費者庁を設置するための関連諸法を制定すること。
5 不正な取引を行う業者に対し、迅速な立入調査に基づき販売の禁止及び製品の回収を命令し、並びに罰則を強化するため、消費者安全法を制定すること。
以上、地方自治法第99条の規定に基づき意見書を提出します。
第45号・雇用・能力開発機構の在り方についての意見書
本年9月17日、行政減量・効率化有識者会議は、昨年末に閣議決定された独立行政法人整理合理化計画に基づき、独立行政法人雇用・能力開発機構の業務について、廃止又は地方、民間及び他の法人への移管を進め、同機構を解体する方向性を示しました。
一方で、行政減量・効率化有識者会議とは別に、同機構の在り方を検討してきた厚生労働省の検討会は、近年の緊急雇用対策のほとんどが同機構を主体として実施されてきたことや、離職者、在職者及び学卒者の職業訓練において、同機構が雇用のセーフティーネット及び中小企業へのものづくり人材の供給で果たしてきた役割を評価しています。
雇用対策法は、職業訓練や職業能力検定に関する施策を充実させることは国の責務であると明確に規定しています。全就業者の3分の1を上回るに至った非正規雇用の増大や、景気後退の下で進む期間工の雇止め及び中小企業の疲弊など、現在の厳しい雇用情勢の中で、労働者の職業訓練及び能力開発における国の責任と役割は、ますます増大しています。また、自社で訓練や研修を実施する余力がない中小企業にとっては、国の責任で行う職業訓練等の支援が必要です。
よって、本市議会は、国会及び政府に対し、同機構の業務の廃止や、地方及び民間等への移管を一方的に進めれば、職業訓練や能力開発における国の責任及び役割を放棄することになりかねないため、次の措置を講じるよう強く要請します。
1 職業訓練及び能力開発における国の責任及び役割を維持するとともに、現在の厳しい経済情勢及び雇用情勢にかんがみ、非正規雇用者や中小零細企業で働く労働者などの訓練機会に恵まれない人に対する施策を充実させること。
2 同機構の在り方については、行政減量・効率化有識者会議と厚生労働省の検討会の間で考え方に違いがあることを踏まえ、「廃止ありき」で結論を急ぐのではなく、利用者から丁寧な意見聴取を行い、個別の業務の実績を詳細に評価した上で、見直すべき点は見直すこと。
3 職業訓練の民間及び地方等への移管は、雇用対策法に示された国の責務を放棄することになりかねず、職業訓練及び能力開発の機能の低下や都道府県の財政力の違いによる訓練格差も懸念されることから、拙速に結論を出すことは避けること。
以上、地方自治法第99条の規定に基づき意見書を提出します。
第46号・WTO農業交渉及び日豪経済連携協定(EPA)交渉に関する意見書
米国が主導する世界貿易機関(WTO)の新多角的貿易交渉(ドーハ・ラウンド)における農業交渉は、市場原理による食のグローバル化を目指し、自由貿易を進めるものです。
日本政府は、関税の削減率を小さくできる重要品目の数を全品目数の10パーセント以上確保するという姿勢から、「原則4パーセント最大6パーセント」という姿勢へ転換しました。金融サミットでは、自由貿易体制の重要性が強調され、ドーハ・ラウンドを本年中に大枠で合意に持ち込む決意が示され、農産物の関税削減に対する国民や農業者の不安が高まっています。
一方、日豪経済連携協定(EPA)交渉は、本年10月までに計7回の会合が開催されましたが、仮に牛肉、小麦、乳製品等の輸入関税が撤廃されると、日本農業は壊滅状況になることが想定されます。
食料危機が迫る中、本年6月の食料サミットでも、食料安全保障は恒久的な国家の政策であるとして、食料生産の強化及び農業投資の拡大が宣言されており、日本でも食料自給率の向上及び食料生産体制の強化が重要な課題となっています。
よって、本市議会は、国会及び政府に対し、次の措置を講じるよう強く要請します。
1 WTO農業交渉では、関税の削減率を小さくできる重要品目の十分な数を確保するとともに、特別セーフガード(緊急輸入制限)を維持し、及び拡大すること。また、汚染米の原因となったミニマムアクセス(最低輸入量)米は削減すること。
2 WTOについては、自由貿易至上主義、削減されてきた農産物に対する関税、輸出国と輸入国の不均衡などを根本から見直し、自由貿易が輸入国や途上国の食料の安全保障や一次産業を衰退させ、貧困化を招き、環境負荷を高めていることなどを考慮し、食料の増産、各国の農業基盤の強化、環境保全、食の安全など農業の価値を高める公正かつ新たな貿易ルールの確立を追求すること。
3 EPA交渉に当たり、我が国の農業及び関連産業の持続的な発展並びに食料の安全保障を確保するため、国民の基礎的食料である牛肉、小麦、乳製品、砂糖などの重要品目は関税撤廃から除外し、国内農業を守るため全力を挙げて交渉し、重要品目に対して十分な配慮が得られないときは、交渉の継続について中断も含め、厳しい判断で望むこと。
以上、地方自治法第99条の規定に基づき意見書を提出します。
第47号・「暮らせる年金」の実現を求める意見書
高齢者世帯の中で、所得が公的年金しかない世帯が約60パーセントにも上ります。高齢者の生活を支える大きな柱は年金であり、その重要性は改めて確認するまでもありません。
しかし、年金を受給していても、いわゆる低年金の場合が少なくありません。高齢者世帯の年間所得を見ると、100万円未満の世帯が15.7パーセントとなっており、6世帯に1世帯の割合となっています。また、100万円以上200万円未満の世帯も27.1パーセントあります。特に高齢の女性単身世帯における所得の低さは際立っており、3世帯に1世帯は年間所得が100万円未満の世帯です。
また、所得が十分でないために生活保護を受ける高齢者が増え、全受給者の38.7パーセントが高齢者となっており、日本の年金制度が高齢期の貧困を防ぐという意味において、十分に機能していない実態も指摘されています。
今後、高齢者の所得をどのように保障していくのか、また、地域によっては生活保護費以下となっている現行の基礎年金の給付水準をどのように見直していくのかが課題となっています。
よって、本市議会は、政府に対し、2004年の年金制度改革を踏まえ、「暮らせる年金」の実現を目指して、新たに創設される日本年金機構の下、より安心で信頼できる年金制度へと改革を進めるため、次の措置を講じるよう強く要請します。
1 2009年4月から基礎年金の国庫負担割合を2分の1に引き上げること。
2 低所得者に対する老齢基礎年金の加算制度の創設、受給資格期間の10年への短縮、追納期間の延長など無年金・低年金対策を拡充すること。
3 高齢者の就労を促進し、所得向上に資するよう在職老齢年金制度の見直しを行うこと。
4 障害基礎年金等の配偶者及び子の加算制度を見直すこと。
以上、地方自治法第99条の規定に基づき意見書を提出します。
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