「酒蔵につきっきり、その制約から解放された」。
IoTセンサーで酒蔵ならではの課題を解決。

溝上酒造株式会社 代表取締役社長 溝上 智彦さん

― 御社の事業内容について教えてください。

弘化元年(1844年)に大分県中津市で創業した酒造メーカーです。昭和6年(1931年)に皿倉山の麓、八幡東区景勝に拠点を移し「天心」など北九州の地酒を製造販売しています。既製商品の他にも企業・団体様から注文をいただいてオーダーメイドの日本酒なども販売しています。

― 老舗酒造メーカーとIoT。どのような装置を導入されたのでしょうか。

酒蔵でIoTと言われてもなかなかイメージしづらいですよね。弊社で導入したのは醸造中のお酒の温度や状態を外出中でも確認できるIoTセンサーです。2019年の2月から本格的に導入を開始しました。IoTなんて聞くと大層な装置をイメージされるかもしれませんが、そのようなものではなく必要な機能を持たせた手作り感のあるセンサー。でも、このおかげでずいぶんと私の動きが自由になったんですよ。

IoTセンサー

酒造りの工程の仕込み期間中、これに半年近い時間がかかるんですけど、麹・もろみ発酵工程現場では職人が温度管理を行います。酒の味・品質を左右する重要な工程なので、常にというわけではないんですが、ある程度つきっきりになって温度を監視します。温度や状態に合わせて麹やもろみを混ぜる「手入れ」をしないといけない。職人の経験や勘で「これぐらいの状態だったらいつくらいにはこの温度になるな」ということはある程度把握できるのですが、特に麹づくりは24時間体制で、この管理が結構大変なんですよ。現状、この工程は私がひとりで行っています。特に小規模酒造所では大手酒造メーカーが使うような大規模なセンサーを導入するのにもハードルが高いですし。

― センサーを導入したきっかけと、導入して変わったことを教えて下さい。

かねてより関わりがあった北九州産業学術推進機構(FAIS)との関わりの中でこのセンサーを開発することになりました。元々、溝上酒造の新規商品開発でお世話になった経緯がありまして。センサーの開発や実証実験等で北九州市内の企業、学校等をコーディネートして頂いた形です。

酒蔵

いちばん大きく変わったのは外部でわたしが自由に動ける時間が増えたことですね。センサーで測定した麹やもろみの発酵温度を外出先でもスマートフォンで確認できるようになったんですよ。発酵の工程で急に温度が変わったり状態が変わったりすることがあるのですが、その確認を現地でしか行えなかったのが出先でも気軽に見れるようになったのは大きいですね。営業活動もできますし、空いた時間で新商品の開発を行ったりミーティングを行ったり。時間ができたことがいちばん大きな変化ですね。

― いい意味で、酒造現場ならではの制約から解放されたということですね。

はい。時間ができたのはありがたいです。その他にも、クラウド上に温度管理のデータが蓄積されていきますから、今まで職人の経験や勘頼りだった品質管理がより精密になると期待しています。どの酒造現場においても温度管理は非常に重要です。お酒は生き物ですから、本当にちょっとした温度の違い、管理方法の違いでガラリと味が変わってしまいます。

― このセンサーと連動して動くロボットの導入などは検討されていますか?

現段階では考えていません。センサーと機械だけで酒を作るというのは、うちとしてはあまり考えていないところですね。職人の目利きや技術、勘や経験も大事です。さらにそれをセンサーで補助してくれるだけでも充分かなと考えています。こういったIoTデバイスと人の手仕事、その両方を活かしつつ社を盛り上げていきたいと考えています。

― 北九州産業学術推進機構(FAIS)の取り組みとして

イノベーションセンター 産学連携担当部長(産学連携コーディネーター) 白石 肇さん

FAISは主に、産学連携のコーディネートによる研究開発から事業化への支援、中小企業に対する創業・ 経営支援等、北九州地域における産業支援機関として活動しています。2019年度、情報通信分野で優位性を持つ公益財団法人九州ヒューマンメディア創造センター(HMC)がFAISに統合し、ロボットやIoT(モノのインターネット)の活用等による地域企業の生産性向上の支援体制が大幅に強化されました。

今回溝上酒造様に導入したセンサーも地場の中小企業をサポートする「生産性向上リーディングプロジェクト」の一環です。IoTと聞くと中々イメージしづらい面があると思いますが、そのモデルケースとして北九州市内に本社をおく酒造メーカーの一つである溝上酒造様とFAISと関わりある企業団体様の連携によるプロジェクトが実現しました。センサーの開発には溝上酒造株式会社、株式会社ソルネット(JBCCホールディングス グループ企業)、株式会社ハピクロ、北九州工業高等専門学校、北九州産業学術推進機構(FAIS)の3社1団体1校が関わっており、FAISがそのコーディネートを行った形です。

元々溝上酒造様とはセンサーの開発以前にも関わりがありました。北九州市立大学環境工学部と溝上酒造様の協働で全く新しい麹菌を使った日本酒「ひびきのの杜」の醸造に参加した経緯があり、先進的な取り組みに対してチャレンジングな姿勢をお持ちの企業であると認識をしていました。今回のIoTセンサー開発のお声掛けをさせていただいた経緯があります。

今回の溝上酒造様の事例のように、IoT導入支援や地域産業発展のための取り組みを積極的に行い、地域産業・経済の発展に貢献していきたいと考えています。

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